知られざる高機能樹脂「PBN」とは?新素材がもたらす可能性|耐摩耗性と加工性を両立する次世代エンジニアリングプラスチック
そんな声を、設計・開発・購買の現場でよく耳にします。金属部品の摩耗、潤滑油管理、定期交換といった課題を解決する手段として、高耐摩耗樹脂の導入が注目を集めています。
中でも帝人が開発した PBN(ポリブチレンナフタレート) は、耐摩耗性・耐薬品性・加工性を高次元で両立する新素材として注目されています。
本記事では、樹脂切削加工のプロフェッショナルであるグッドウッドKYOTOが、PBNの特性・他素材との比較・活用事例を交えてわかりやすく紹介します。
第1章:「PBN」とは?ポリブチレンナフタレートの基本概要
PBN(Polybutylene Naphthalate)は、帝人エンジニアリングプラスチックス株式会社が開発した高性能エンジニアリングプラスチックです。同社によると、PBNは「非常に高い耐摩耗性と、優れた加工性を兼ね備えたナチュラルグレード素材」として位置づけられています。
PBNは、ナフタレンジカルボン酸とブタンジオールを重縮合して得られるポリエステル系樹脂で、一般樹脂(POMやPAなど)とスーパーエンプラ(PEEKやPPSなど)の中間に位置する素材です。
軽量・高剛性・高耐摩耗性といった特長を活かし、金属部品の代替素材として多くの業界で採用が進んでいます。
第2章:PBNの特長と性能データ(耐摩耗性・耐薬品性・加工性)
◎ 優れた耐摩耗性
帝人の製品紹介ページでは、PBNは「非常に高い耐摩耗性」を持つと説明されています。さらに、比較データとして以下のような性能差が公表されています。
- POMと比較して約20倍削れにくい
- PEEKと比較して100倍以上削れにくい
つまり、一般的な摺動用樹脂と比べて、桁違いに摩耗が少ないということです。これは、PBNの高結晶構造と滑り性の高さによるもので、摺動部・ガイド部などで部品寿命を大幅に延ばすことが可能です。
◎ 耐薬品性・低吸湿性
- 有機溶剤・アルカリ・酸などに対して高い耐性を示し、化学薬品や洗浄液を使用する環境でも安定して使用可能です。
- 吸湿率が低いため、寸法変化がほとんど発生しない点も大きな特長です。長期間の使用でも精度を維持できるため、精密機構部品に最適です。
◎ 切削加工性
PBNは、耐摩耗性の高い素材でありながら一般的なマシニングセンタや複合旋盤で切削加工が可能です。バリや熱変形が起きにくく、他の高機能樹脂に比べて安定した加工精度を得られます。
つまり、「高性能でありながら、扱いやすい」
— 設計担当者にとっても、加工メーカーにとっても理想的な素材です。
第3章:他素材との比較(PBN vs PEEK vs POM)
| 素材 | 耐摩耗性(摩耗損失比) | 耐熱性(連続使用温度) | 加工性 | 主な特徴 |
| PBN | POM比1/20・PEEK比1/100以下 | 約100〜130 °C(融点243 °C) | ◎(切削性良) | 高耐摩耗+加工性のバランス素材 |
| PEEK | PBN比で約100倍摩耗しやすい | 約250 °C級(高温対応) | △(バリ・コスト高) | 高温・薬品環境向け |
| POM | PBN比で約20倍摩耗しやすい | 約90〜100 °C前後 | ◎(量産・コスト良) | 汎用摺動用途向け |
PBNは、PEEKよりも耐摩耗性で優れ、POMよりも長寿命でありながら、加工のしやすさとコストバランスにも優れる「実用型高機能樹脂」です。
第4章:PBNが活躍する代表的な用途・業界
PBNは、その特性を活かして多様な分野で採用が進んでいます。
半導体製造装置の摺動ガイド部
- クリーン環境下でのパーティクル発生を抑制。
- 無潤滑条件でも安定した摺動性能を発揮。
医療機器・分析装置の摺動プレート
- 低吸湿・高寸法安定性により、測定再現性を確保。
搬送ライン・自動化設備のガイド部品
- 潤滑レスで長寿命化。静音化・軽量化にも寄与。
食品製造機械の摺動・搬送部品
- PBNは食品衛生法のポジティブリストに掲載済み素材。
出典:帝人エンジニアリングプラスチックス PBNナチュラルグレード - 食品と接触する部品にも使用でき、金属摩耗粉の混入リスクを低減。
- 食品搬送ローラー、スライダー、包装機摺動部などの置換実績あり。
精密測定・光学機器分野
- 温度変化による寸法誤差が小さく、安定した動作を実現。
自動車部品(シートレール・ギヤ・アクチュエータなど)
- 軽量化・静音化・耐摩耗のバランスに優れる。
各業界に共通するのは、「摩耗・潤滑・寸法変化の課題を同時に解決できる」という点です。PBNは、従来の樹脂では達成できなかった耐摩耗と精度保持を両立し、設計自由度の拡大に貢献します。
第5章:まとめ|耐摩耗・軽量・加工性・食品衛生を両立するPBNで“金属からの一歩先へ”
金属部品を樹脂化することで得られるメリットは、軽量化・潤滑レス化・メンテナンスコスト削減。その中でもPBNは、耐摩耗性と加工性を兼ね備えた稀有な素材として、設計の新たな可能性を拓きます。
グッドウッドKYOTOでは、PBNをはじめとする高機能樹脂を使用した精密切削加工を得意としています。
マシニングセンタ・複合旋盤を活用し、試作1個から短納期対応まで柔軟にサポート。
- 高耐摩耗樹脂部品の切削試作
- PBN・PEEK・POMなどの素材選定支援
- 摩耗試験用サンプル加工・評価対応
「PBNを試してみたい」「金属部品を樹脂に置き換えたい」とお考えの方は、ぜひ一度 グッドウッドKYOTO にご相談ください。