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アルミダイカスト部品の樹脂化と金属代替エンプラ活用:軽量化・低コストを実現する秘訣

現代のものづくりにおいて、製品の「軽量化」と「低コスト化」は、競争力を高める上で不可欠な要素です。特に、自動車や産業機械、家電などの分野で広く利用されてきたアルミニウムダイカスト部品の樹脂化、および他の金属部品のエンジニアリングプラスチック(エンプラ)への代替が注目を集めています。高性能なエンプラの進化により、これまで金属でしか実現できなかった強度や機能が樹脂で可能になり、多くのメリットが生まれています。

本記事では、アルミダイカスト部品の樹脂化と金属代替におけるエンプラの活用事例、そして軽量化とコスト削減を実現するための具体的なアプローチを、研究者、技術者、メーカー、開発者の皆様に向けて詳解します。

アルミダイカスト部品の樹脂化がもたらす革新:軽量化と低コスト化の秘訣

アルミダイカスト部品を樹脂化することは、製品の性能向上と製造コスト削減に直結する戦略的な選択肢です。

劇的な軽量化効果と多岐にわたるメリット

樹脂は金属に比べて比重が格段に軽いため、大幅な軽量化が可能です。アルミニウム(比重2.7)から樹脂(比重1.3〜1.4程度)への置き換えでは、約1/2の軽量化が期待できます。これは鉄(比重7.8)からの置き換えであれば、約1/5〜1/6にもなります。

具体的な事例としては、電動自転車のモーター部品ハウジングや、自動車のパワートレイン部品がアルミダイカストから樹脂化され、重量を1/2に削減した事例があります。また、バッテリーハウジングの事例では、鉄製に比べて50%減、アルミニウム製に比べて20%減の軽量化が実現されています。軽量化がもたらすメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

・自動車の燃費向上・EVの航続距離延長

車両重量の軽減は、燃費効率を大幅に改善し、電動車両の航続距離延長に貢献します。

・物流コスト削減

製品や部品が軽くなることで、輸送時の燃料費削減や積載量の増加が可能になります。
作業負担の軽減: 作業者が扱う部品が軽量化されることで、組立作業や運搬作業における身体的負担が軽減され、生産性の向上が期待できます。

・環境負荷の低減

CO2排出量削減にも寄与し、サステナブルなものづくりを推進します。

圧倒的な低コスト化を実現する要因

樹脂化は、以下のような多角的なアプローチでコスト削減に貢献します。

・加工コストの削減・省工程化

金属部品の製造には切削、溶接、表面処理など複数の工程が必要ですが、樹脂の射出成形では複雑な形状でも一度の工程で大量生産が可能です。これにより、加工コストとリードタイムの大幅な短縮が期待できます。複数の部品を一体成形できるため、部品点数や組み立て工数の削減にもつながり、年間数百万円規模の経費削減事例も報告されています。

・原材料コストの抑制

同一形状であっても、多くの場合、樹脂の方が原材料コストが低く抑えられます。特に量産規模が大きいほど、この差は顕著になります。

・塗装・メッキレス化

樹脂は着色剤を混ぜることで成形時に色付けが可能であり、優れた意匠性を持つ素材も増えています。これにより、塗装やメッキといった後工程が不要となり、その分のコストと環境負荷を削減できます。

・金型耐久性の向上

アルミニウムダイカスト金型と比較して、樹脂金型は耐久度が高いため、金型交換頻度が減少し、長期的なランニングコストの削減が見込めます。

具体的な削減事例としては、アルミ部品の樹脂化により、60%のコスト削減に成功した事例や、放熱対策部品の樹脂化で部品費を80%削減した事例もあります。

設計自由度と生産効率の向上

樹脂は金属と比較して、金型の設計次第でより自由度の高い複雑な形状を実現できます。これにより、複数の金属部品で構成されていたアセンブリを単一の樹脂部品として一体成形することが可能となり、部品点数の大幅な削減、組み立て工数の簡素化、そして全体の信頼性向上に貢献します。射出成形による大量生産は、生産リードタイムの短縮と生産効率の飛躍的な向上をもたらします。

金属代替としてのエンプラ活用事例と主要材料

金属の代替材料としてエンジニアリングプラスチック(エンプラ)が選ばれるのは、軽量化とコスト削減だけでなく、防錆性、絶縁性、耐薬品性、設計自由度など、多岐にわたるメリットがあるためです。

多岐にわたる産業分野でのエンプラ活用事例

エンプラは、その特性を活かして様々な産業分野で金属代替として採用されています。

・自動車分野

燃費向上やEVの航続距離延長のため、エンジン周辺部品、ギア、ABS部品、センサー、パワートレイン関連部品(モーターハウジング、コンデンサケース、リアクターハウジング)、ワイヤハーネス、ルーフレール、EVバッテリーケースなどがPEEK、PPS、PA66、PC、ABSなどのエンプラに置き換えられています。

・産業機械分野

ロボットアーム部品、自動搬送装置フレーム、ギア、カム機構、軸受け、バルブ、ポンプ部品などに、軽量化、省エネ、耐摩耗性、耐熱性、耐薬品性を目的としてPOM、MCナイロン、PPS、PEEKなどが使用されます。

・医療機器分野

生体適合性や高強度、耐熱性、耐薬品性が求められる人工椎間板、骨ネジ、手術器具、歯科ドリル、高機能コンテナーなどにPEEK、PEI、PPSU、PESなどが活用されています。

・航空宇宙分野

機体の大幅な軽量化による燃費効率向上や排出量削減のため、配管部材、断熱材、配線部品などにPEEKやPEIなどの高強度・高剛性プラスチックが広く用いられています。

・電機・電子機器分野

外装パネル、スマートフォンケース、ICソケット、搬送治具、精密部品、電気電子部品などには、軽量性、耐衝撃性、絶縁性、デザイン性が求められ、PC、ABS、PEEK、PEIなどが利用されます。

住宅設備分野: ドアや戸に用いられるクレセントや蝶番などの部品に、高い強度と意匠性、メッキレスによる環境負荷低減を目的に、高強度ナイロン樹脂(PA樹脂)が採用されています。

・ドローン分野

フライト時間延長のための軽量化ニーズから、アルミニウム切削品をPPSに代替し、大幅な軽量化を実現した事例があります。

金属代替を支える高性能エンプラの種類と特性

金属代替に用いられるエンプラは、従来のプラスチックにはない高い機械的特性、耐熱性、耐薬品性などを持ちます。

・PPS(ポリフェニレンサルファイド)

耐熱温度220〜240℃。優れた剛性・強度、耐疲労性、耐クリープ性、耐薬品性、電気絶縁性を持ち、流動性が高く成形性にも優れます。

・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)

連続使用温度250℃。強い剛性、耐衝撃性、耐薬品性、耐放射線性、耐蒸気性、優れた摺動性を兼ね備えるスーパーエンプラ。航空宇宙、自動車、医療、半導体分野で活用されます。

・PAI(ポリアミドイミド)

連続使用温度275℃。熱可塑性プラスチック最高位の耐熱性を持ち、低クリープ性、電気的特性、難燃性、抜群の耐摩擦摩耗性を持つ。重機械の金属部品代替材料に。

・PEI(ポリエーテルイミド)

連続使用温度170℃。高温下でも機械的強度と寸法安定性を維持し、難燃性、耐薬品性、耐紫外線性、透明性にも優れる。電気電子部品、自動車・航空宇宙関連、半導体製造ライン部品に。

・PES(ポリエーテルサルフォン)

連続使用温度180℃。優れた耐熱性と、特に高温でのクリープ特性が良好。耐スチーム性、低い吸水率による寸法安定性、有機薬品への耐性を持つ。自動車・航空機の内装、医療部品に。

・PA66(ポリアミド66)

高強度、耐熱性、耐薬品性に優れ、ガラス繊維強化によりさらに機械的特性が向上します。MXD6(ポリアミドMXD6)も同様に利用されます。

・その他の材料

PC(ポリカーボネート)、POM(ポリアセタール)なども、用途に応じて金属代替に利用されます。

これらの樹脂は、ガラス繊維や炭素繊維などで強化されることで、さらに高い機械的特性を発揮し、金属に匹敵する、あるいはそれ以上の性能を発揮することが可能です。

樹脂化・金属代替における課題と成功への鍵

物性差の理解と設計思想の転換

金属と樹脂は、剛性、熱膨張、クリープ、疲労、衝撃、熱・電気特性など、基本的な物性で大きく異なります。

・単純な置き換えはリスク

金属部品の設計図をそのまま樹脂に流用すると、剛性不足によるたわみ、熱変形、クリープ変形、寸法変化などの問題が発生する可能性があります。

・樹脂ならではの設計が不可欠

樹脂の低いヤング率(弾性率)を前提に、リブの追加や断面形状の工夫など、樹脂の特性を最大限に活かした剛性設計が不可欠です。射出成形時の抜き勾配の設計も重要になります。

・クリープ現象への対応

樹脂は持続的な荷重下でクリープ変形が顕著に現れる特性があります。結晶性樹脂(POM、 PA、 PBTなど)は非晶性樹脂(PC、 ABSなど)よりも耐クリープ性に優れ、ガラス繊維強化によってさらに向上します。

適切な材料選定とシミュレーションの活用

用途に応じて、耐熱性、強度、靭性、耐薬品性、耐候性、クリープ特性など、要求される性能を確実に満たす適切な樹脂を選定することが極めて重要です。

・高性能エンプラの活用

強度や剛性が懸念される部位には、ガラス繊維強化や炭素繊維強化された高機能なエンジニアリングプラスチックの採用を検討します。比強度ではアルミニウムダイカストに匹敵するエンプラも開発されています。

・CAE解析の活用

金型設計段階で、流動解析や強度解析(CAE)を用いることで、成形時の反り、ヒケ、ひずみ、剛性不足などを予測し、最適な形状や材料、成形条件を導き出すことができます。

・試作における3Dプリンター活用

少量生産の場合や、試作段階では金型製作コストが懸念されますが、3Dプリンターや切削加工を活用することで、低コストかつ短期間で試作品を製作し、検証を進めることが可能です。

アルミダイカストの優位性と樹脂化の判断基準

アルミニウムダイカストも、複雑な形状を高い寸法精度(IT10-IT11)と優れた表面仕上げで大量生産できる効率的な製造プロセスです。特に、以下のような特性が求められる場合には、依然として優れた選択肢です。

・非常に高い熱伝導性

・特定の電磁シールド性能

・極めて高い剛性と耐衝撃性(特定の用途)

しかし、樹脂化は「軽量化」「低コスト化」「防錆性・絶縁性」「設計自由度」「工程削減」といったメリットを総合的に評価し、製品のライフサイクル全体での価値を最大化する選択肢となり得ます。

まとめ:未来のものづくりを牽引する樹脂化とエンプラ活用

アルミダイカスト部品の樹脂化、および金属代替としてのエンプラ活用は、単なる材料置換にとどまらず、製品の性能向上、製造プロセスの革新、環境負荷低減を同時に実現する、未来志向のものづくりアプローチです。

軽量化による燃費・電費向上、物流コスト削減、作業性改善。そして、一体成形や後加工レスによる劇的なコスト削減。これらは、競争が激化する市場において、企業が優位性を確立するための強力な武器となります。

高性能エンプラの進化とCAE技術の進歩は、これまで不可能とされてきた金属部品の樹脂化を現実のものとしています。物性差の深い理解と、樹脂の特性を最大限に引き出す設計思想への転換こそが、この革新を成功させる鍵となるでしょう。私たちは、この樹脂化・金属代替の大きな市場機会を捉え、持続可能な社会と豊かな未来の実現に向けて、次世代のものづくりを共に推進していくことができます。

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